睡眠・不眠 #33
「ずっと眠れていない」見え方のズレがある場合
結論(先に)
「ほとんど眠れていない」という感覚と、客観的な睡眠時間がずれることがあります。これは嘘や大げさではありません。Edinger ら(2001)はこの状態を睡眠状態誤認(sleep state misperception)として整理しており、本人の苦痛と日中機能への影響は本物です(※1)。またウェアラブルのスコアへのこだわり(オルソソムニア)が不安を増幅させることも報告されています(→ #22)(※2)。
読者の状況
- 自分では一睡もしていない感覚がある
- 家族に「寝ていた」と言われて傷つく
- 睡眠アプリの結果と体感が合わない
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 実際に寝ているなら問題ない | 本人の苦痛と日中機能は重要な治療対象 |
| 気にしすぎなだけ | 不眠症の一形態として CBT-I の対象になる |
| アプリのスコアが正しい | ウェアラブルも主観も、それぞれ限界がある |
根拠に基づく一般向け整理
睡眠状態誤認(Sleep State Misperception)
不眠症の主観的訴えと客観的測定値のズレは「睡眠状態誤認」または「逆説性不眠(Paradoxical Insomnia)」と呼ばれ、ICSD-3(国際睡眠障害分類第3版)に収載されています(※3)。Edinger & Krystal(2003)の研究では、PSG(polysomnography:終夜睡眠ポリグラフ検査)で実際の睡眠が記録されていても、入眠にかかった時間を大幅に長く感じることがあることが示されています(※1)。
重要なのは「本当に寝たか」を争うことではなく、眠れない感覚がどのように生活を苦しめているかを整理することです。
なぜ主観と客観がずれるか
- 夜間の**微小覚醒(微小な目覚め)**が多く、眠りが浅く感じられる
- 不安や監視傾向(時計を何度も確認するなど)が覚醒感を強める
- ウェアラブルのスコアへの過度のこだわりが不安を増幅する(→ #22)
CBT-I での対応
CBT-I では、「眠れていない」という認知にも働きかけます。睡眠日誌を用いて主観と記録を比較し、睡眠に関する誤った思い込みを修正する認知再構成が含まれます(※4)。
今日から試せる行動
- 睡眠日誌を書く(就寝・覚醒時刻・眠れた感覚を記録)
- 夜中の時計確認を減らす
- ウェアラブルの毎朝のスコア確認をやめてみる(→ #22)
- 「日中の困りごと」を中心に症状を整理する
受診・紹介の目安
- 眠れていない感覚が強く、日中の生活に支障がある
- 睡眠薬が増えている(→ #23)
- 気分症状(落ち込み・不安)がある(→ #18)
- ウェアラブルのスコアへの不安で生活が妨げられる(オルソソムニア→ #17)
免責
一般向け概説です。診断名の確定や自己判断での治療変更はできません。
参考文献
国際文献
- ※1 Edinger JD, Krystal AD. Subtyping primary insomnia: is sleep state misperception a distinct clinical entity? Sleep Med Rev. 2003;7(3):203-214.
- ※2 Reid A, et al. Orthosomnia: Are Some Patients Taking the Quantified Self Too Far? J Clin Sleep Med. 2017;13(2):351-354.
- ※3 American Academy of Sleep Medicine. International Classification of Sleep Disorders, 3rd ed. Darien, IL: AASM; 2014.
- ※4 Edinger JD, et al. Behavioral and Psychological Treatments for Chronic Insomnia Disorder in Adults: An AASM Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262.
国内文献
- ※5 特集「睡眠の正しい理解を促す70のトリビア」. 精神医学 2025; 67(5)
- ※6 曽我純也, 河邉憲太郎, 堀内史枝. デジタルデバイスを利用した睡眠障害の治療. 精神医学 2025; 67(4)