睡眠・不眠 #4

CBT-Iとは——薬だけに頼らない不眠治療の枠組み


結論(先に)

CBT-I(Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia:不眠症に対する認知行動療法)は、AASM(American Academy of Sleep Medicine:米国睡眠医学会)のガイドラインで多要素CBT-Iが強く推奨され、ACP(American College of Physicians:米国内科学会)も成人の慢性不眠に対する初期治療として推奨している非薬物療法です。「眠る努力を増やす治療」ではなく、眠れないまま布団にいる・眠れない不安が強まる・起き上がれずに時計を見る、といった不眠を維持している行動と考え方を整える治療です。睡眠薬を否定するものではなく、薬が必要な場合も、行動と認知の土台を整えることが減薬や長期の改善につながります。


読者の状況

  • 睡眠薬をいつまで飲み続ければよいか不安がある
  • 「睡眠に良い習慣」はすでに試しているが改善しない
  • CBT-Iという言葉を聞いたが、何をするのかわからない

よくある誤解

誤解実際
CBT-Iは「根性論」「我慢の練習」行動・認知の仕組みに基づく体系的技法であり、意志力の問題ではない
アプリを入れれば CBT-I 完了dCBT-I(digital CBT-I:デジタル不眠症認知行動療法)は有効だが、医師との組み合わせが基本(※3)
効果は一時的治療終了後 6〜12 か月でも睡眠改善の維持が確認されている(※2)

根拠に基づく一般向け整理

ガイドラインにおける位置づけ

AASMの2021年臨床ガイドラインでは、慢性不眠症の成人に対し多要素CBT-Iを強く推奨しています(※1)。ACPの2016年ガイドラインも、慢性不眠に対してCBT-Iを初期治療として推奨し、薬物療法は「CBT-Iが無効・アクセス不可の場合の選択肢」と位置づけています(※4)。

主要技法の概要

技法内容位置づけ
睡眠衛生カフェイン・光・運動などの生活基礎土台だが単独では慢性不眠に不十分(→#5参照)
刺激統御ベッド=眠る場所の条件づけを取り戻す標準治療(※1)
睡眠制限布団にいる時間を実際の睡眠時間に近づける最大の効果量を示す成分(※5)
認知再構成「今夜も眠れない」などの不安思考を整理刺激統御・制限との組み合わせで効果大
リラクゼーション漸進的筋弛緩・呼吸法など覚醒レベルを下げる補助

効果のエビデンス

Trauer らのメタアナリシス(2015)では入眠潜時 −19 分・中途覚醒 −26 分・睡眠効率 +10% が示されました(※2)。2022 年以降の研究でも不眠重症度スコア(ISI)に対し中〜大の効果量(Cohen’s d ≈ 0.8〜1.0)が一貫して報告されています(※3)。

dCBT-Iについて

インターネット・アプリを用いた dCBT-I は、対面でのアクセスが難しい方の選択肢になりえます。メタアナリシスでも有効性が示されていますが、すべてのアプリが同等ではなく、医師の診療との組み合わせが前提です(※1, ※3)。


今日から試せる行動

CBT-I 開始前の自己観察(1〜2 週間):

  1. 睡眠日誌:就寝・推定入眠・中途覚醒・起床時刻を毎朝記録
  2. 「布団にいた時間」と「眠れた時間」の差を把握する
  3. 「いちばん困る症状」(入眠・中途覚醒・早朝覚醒のどれか)を一つ決める

受診・紹介の目安

以下の場合、CBT-I 前に医学的評価が優先されます:

  • 双極性障害・てんかん(睡眠制限の禁忌)
  • OSA(睡眠時無呼吸)の疑い(→#16参照)
  • 重度のうつ病・自傷念慮

免責

本記事は一般向け概説です。睡眠薬の変更・CBT-Iの開始は主治医・専門家と相談のうえ行ってください。自己判断による睡眠薬の中止は危険です。


参考文献

国内文献

  • ※6 上野太郎. プログラム医療機器を用いた不眠症治療としての認知行動療法. 精神医学 2025; 67(1)
  • ※7 特集「睡眠の正しい理解を促す70のトリビア」. 精神医学 2025; 67(5)

国際文献

  • ※1 Edinger JD, et al. Behavioral and Psychological Treatments for Chronic Insomnia Disorder in Adults: An AASM Clinical Practice Guideline. J Clin Sleep Med. 2021;17(2):255-262.
  • ※2 Trauer JM, et al. Cognitive Behavioral Therapy for Chronic Insomnia: A Systematic Review and Meta-analysis. Ann Intern Med. 2015;163(3):191-204.
  • ※3 Seyffert M, et al. Internet-Delivered CBT to Treat Insomnia: A Systematic Review and Meta-Analysis. PLoS One. 2016;11(2):e0149139.
  • ※4 Qaseem A, et al. Management of Chronic Insomnia Disorder in Adults: A Clinical Practice Guideline From the ACP. Ann Intern Med. 2016;165(2):125-133.
  • ※5 Alimoradi Z, et al. Network meta-analysis examining efficacy of components of cognitive behavioural therapy for insomnia. Sleep Med Rev. 2024.