慢性痛の患者さんへ:加齢と痛みの感じ方の変化
結論(先に)
慢性的な痛みは、組織の損傷が治った後も続くことがあり、加齢・ホルモン環境の変化・睡眠障害・精神的ストレスが痛みの感じ方(痛覚感受性)に影響することが示されています。「歳のせいで仕方ない」と放置するのではなく、痛みの性質と背景を整理することが大切です。慢性痛は整形外科・ペインクリニック・心療内科が連携して対応する領域です。
読者の状況
- 「ずっと腰・膝・肩が痛いが、もう慣れている」
- 「整形外科で画像には大きな異常がないと言われたが痛みが続く」
- 「年を取ると痛みに鈍くなるのか、敏感になるのかわからない」
- 「睡眠が悪くなってから痛みがひどくなった気がする」
- 「男性ホルモンと痛みが関係するとは聞いたことがない」
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 画像で異常がなければ痛みは「気のせい」 | 慢性痛は中枢性感作など神経系の変化が関与することがある(※1) |
| 歳を取ると痛みに鈍くなる | 加齢による痛覚感受性の変化は複雑で、慢性痛はむしろ増悪しやすい |
| 痛み止めを飲み続ければ解決する | 慢性痛には多角的なアプローチが必要で、薬のみに頼るのは難しい |
| 男性ホルモンは痛みと無関係 | テストステロンの痛覚調節への関与を示す研究がある(※2) |
根拠に基づく一般向け整理
慢性痛とは
急性痛が3か月以上持続する、または本来の組織修復期間を超えて続く痛みを慢性痛と呼びます(※1)。整形外科領域では腰痛・膝痛・肩痛が代表的です。
慢性痛では、末梢神経だけでなく脊髄・脳(中枢神経系)が過敏化する「中枢性感作」という現象が起きることがあります(※1)。これにより、本来なら痛みの刺激でない触覚・温度変化なども痛みとして感じられることがあります。
加齢と痛覚感受性
加齢が痛みの感じ方に与える影響は一様ではありません(※3)。
- 急性の痛みの閾値はやや上がる傾向がある(痛みを感じにくくなる)
- 一方、慢性的な状態では痛みへの耐性が低下し、強く感じる傾向がある
- 加齢に伴う神経系・免疫系の変化が慢性炎症を促進する可能性がある
「歳を取ったら痛みに強くなる」は単純化しすぎた説明であり、慢性痛の管理は年齢を問わず重要です。
テストステロンと痛みの関係
テストステロンには痛覚調節への関与が示唆されています(※2)。
- 動物実験・ヒト研究において、テストステロンが低い状態では痛みへの感受性が高まる可能性が示されています
- 女性ではエストロゲンと痛みの関係が研究されていますが、男性のテストステロンと慢性痛の関係は研究が進んでいる段階です
- LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)(→ #1)の状態と慢性痛の合併が多いとする報告があります(※4)
テストステロンが低いことが慢性痛の「原因」であるという確定的な証拠はなく、両者は共通のリスク因子(加齢・肥満・不活動・睡眠障害)を持つ可能性もあります。
睡眠と慢性痛の双方向関係
睡眠の質の低下は痛みの感受性を高め、痛みは睡眠を妨げるという双方向の悪循環があります(※5)。この関係は加齢男性でより顕著になる可能性があります(→ #8・睡眠シリーズ sleep #1 参照)。
睡眠改善が慢性痛の軽減に寄与することを示す研究もあり、睡眠と痛みを同時にアプローチすることが重要です。
慢性痛への多角的アプローチ
慢性痛の管理には薬物療法に加えて、以下が有効とされます(※6)。
- 運動療法:有酸素運動・筋力トレーニングが慢性腰痛・膝痛に有効(→ #23)
- 認知行動療法(CBT):痛みへの考え方・行動パターンへのアプローチ
- 睡眠管理:睡眠の質の改善が痛みの緩和に寄与することがある
- 生活習慣の整備:禁煙・減酒(→ #24)・体重管理(→ #21)
整形外科・ペインクリニック・心療内科などの連携が望ましい場合があります。
今日から試せる行動
- 痛みの強さ・部位・悪化するタイミングを1週間記録して受診時に持参する
- 睡眠の質を改善する生活習慣(→ 睡眠シリーズ sleep #1)を試してみる
- 「動かすと痛い」という理由で完全に安静にするのではなく、痛くない範囲の軽い運動から始める
- 整形外科・ペインクリニックへの相談を検討する
受診・紹介の目安
以下の場合は速やかに受診してください。
- 赤旗症状:安静時の激しい痛み・夜間痛(悪性腫瘍・感染・骨折の可能性)
- 赤旗症状:下肢の麻痺・しびれ・排尿・排便の障害(脊髄・馬尾神経の障害)
- 赤旗症状:発熱・体重減少を伴う痛み
- 慢性痛によるうつ・不眠・社会的引きこもりが起きている(→ 心療内科・精神科)
- 市販の鎮痛薬を毎日服用している(薬物乱用頭痛・胃腸障害のリスク)
免責
本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療の代替ではありません。慢性的な痛みが続く場合は、医療機関を受診してください。
参考文献
国内文献
※6 日本ペインクリニック学会「慢性疼痛治療ガイドライン」(最新版参照)
国際文献
※1 Treede RD, et al. Chronic pain as a symptom or a disease. Pain. 2019;160(1):19-27.
※2 Aloisi AM, et al. Cross-sex hormone administration changes pain in transsexual women and men. Pain. 2007;132(Suppl 1):S60-S67.
※3 Gibson SJ, Farrell M. A review of age differences in the neurophysiology of nociception and the perceptual experience of pain. Clin J Pain. 2004;20(4):227-239.
※4 Guay AT, Jacobson J. Decreased free testosterone and dehydroepiandrosterone-sulfate (DHEA-S) levels in women with decreased libido. J Sex Marital Ther. 2002;28(Suppl 1):129-142.
※5 Finan PH, et al. The association of sleep and pain: an update and a path forward. J Pain. 2013;14(12):1539-1552.