「物忘れが増えた気がする」——認知機能とテストステロン
結論(先に)
「最近、物忘れが増えた」「集中力が続かない」という症状は、加齢・睡眠不足・ストレスだけでなく、テストステロン低下(LOH症候群:Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)が関与している可能性があります。認知機能とテストステロンの関係はまだ研究途上ですが、他の症状(倦怠感・気力低下など)と重なる場合は、一度医師に相談することが有益かもしれません。
読者の状況
- 40〜60代で「物忘れが増えた」「頭が働かない」と感じている
- 認知症が心配だが、病院に行くほどかどうか迷っている
- 疲れやすさ・気力低下など他のLOH症候群様症状も重なっている
- 睡眠不足やストレスが原因なのか、ホルモンの影響なのか区別がつかない
- 家族から「最近おかしい」と言われたことがある
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 物忘れは認知症の始まりに違いない | 加齢・睡眠不足・うつ・LOH症候群など多様な原因がある。自己診断は危険 |
| テストステロンを補充すれば認知機能が回復する | TRTの認知機能への効果は研究途上で、全員に有効とは言えない(※3) |
| 物忘れは放置でいい、歳のせいだから | 基礎疾患が隠れている場合があり、症状が続く場合は評価が有用 |
根拠に基づく一般向け整理
テストステロンと脳の関係
テストステロン受容体は脳内(海馬・前頭前野など)に存在し、記憶・注意・情報処理に関与していると考えられています(※1)。動物実験および観察研究では、テストステロン低値と認知機能の低下に関連が示唆されていますが、因果関係の確立には至っていません(※2)。
男性の認知機能低下とLOH症候群の重なり
LOH症候群の症状として、日本のガイドラインでは「集中力の低下」「記憶力の低下」が列挙されています(※4)。ただし、これらの症状は以下の疾患・状態でも生じます。
- 睡眠障害(睡眠時無呼吸症候群など:睡眠の質が認知機能に大きく影響する)
- うつ病・抑うつ状態(集中力・記憶力への影響が大きい)
- 甲状腺機能低下症(全身性の倦怠感・思考の遅さ)
- 高血圧・糖尿病(血管性認知機能障害のリスク)
- アルコール過剰摂取
これらの可能性を除外したうえで、LOH症候群の関与を評価することが重要です(→ #4)。
TRTと認知機能のエビデンス
TRTが認知機能を改善するかどうかについては、複数の臨床試験が行われています。Testosterone Trials(TTrials)では、テストステロン治療を受けた高齢男性において言語記憶の改善が一部で認められましたが、全般的な認知機能への有意な効果は示されませんでした(※3)。現時点では、TRTを認知機能改善目的で行うことは標準的な適応ではありません。
認知症との区別
MCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知障害)や認知症との鑑別は、専門医(神経内科・精神科・もの忘れ外来)による評価が必要です。LOH症候群が疑われる場合でも、認知機能の評価と並行してテストステロンを確認することで、より多角的なアプローチが可能になります。
今日から試せる行動
- 「物忘れ」の具体的な内容(いつ・何を忘れるか)を1週間記録してみる
- 睡眠の質・量・うつ症状の有無も同時に振り返る(睡眠と認知機能は密接に関係する)
- AMSスコアを記入し、認知関連以外の症状(倦怠感・気力・性機能)も確認する(→ #2)
- 気になる場合は、かかりつけ医または「もの忘れ外来」に相談する
受診・紹介の目安
以下の場合は、早めに医療機関への相談をお勧めします。
- 物忘れが日常生活や仕事に支障を来している(もの忘れ外来・神経内科)
- 急速に物忘れが進んでいる気がする(認知症の早期評価が重要)
- 気分の落ち込み・意欲の消失が2週間以上続いている(うつ病の可能性:→ #3)
- 倦怠感・気力低下・性機能の変化も重なっている(LOH症候群の評価:→ #1)
- いびき・日中の強い眠気がある(睡眠時無呼吸症候群の評価を先に行う)
受診先の目安:かかりつけ医、もの忘れ外来(神経内科・精神科)、泌尿器科(LOH症候群評価)
免責
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針の決定に代わるものではありません。認知機能の変化が気になる場合は医療機関を受診してください。
参考文献
国内文献
- ※1:日本老年精神医学会「認知症診療ガイドライン2017」
- ※4:日本泌尿器科学会・日本Men’s Health医学会「LOH症候群診療ガイドライン(2022年版)」
国際文献
- ※2:Jankowski JT, et al. “Testosterone and cognition in healthy older men: A meta-analytic review.” Neurosci Biobehav Rev. 2014;38:252–262.
- ※3:Resnick SM, et al. “Testosterone Treatment and Cognitive Function in Older Men with Low Testosterone and Age-Associated Memory Impairment.” JAMA. 2017;317(7):717–727.
- ※5:Bhasin S, et al. “Testosterone Therapy in Men with Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline.” J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715–1744.