男性の更年期 #23

筋肉量が減ってきた気がする——サルコペニア予防と生活でできること


結論(先に)

筋肉量・筋力の低下(サルコペニア)は加齢とともに起こりやすく、男性ホルモン(テストステロン)の低下とも関連することが報告されています。しかし「年のせいだから仕方ない」とあきらめる必要はなく、適切な運動とタンパク質摂取で改善の余地があります。急激な体重・筋力の低下は別の疾患のサインであることもあり、その場合は受診が必要です。


読者の状況

  • 「以前より体が細くなった気がするが、運動もしていないので仕方ない」
  • 「階段がきつくなってきた・重いものが持ちにくくなってきた」
  • 「タンパク質が大事とは聞くが、どのくらい食べればよいかわからない」
  • 「筋トレを始めたいが何をどのくらいやれば効果があるのか」
  • 「男性ホルモンと筋肉が関係するとは知らなかった」

よくある誤解

誤解実際
筋肉の減少は加齢の宿命で止められない適切な運動・栄養で低下速度を抑え、回復させることが可能
プロテインは若者やアスリートのもの高齢者・中年男性こそタンパク質補給が重要という報告がある(※1)
筋トレで急激な筋肉増加が期待できる最初の変化は神経系の適応で、筋肥大は数週間〜数か月かかる
筋肉が落ちるのはテストステロンが下がるからテストステロン以外にも運動不足・栄養・慢性疾患など多因子

根拠に基づく一般向け整理

サルコペニアとは

サルコペニアとは、加齢に伴う骨格筋の量・質・筋力の低下を指す概念です(※2)。歩行速度の低下・握力の低下・筋肉量の減少を指標として評価されます。

サルコペニアは転倒リスク・骨折リスクの増加と関連し(→ #28)、生活の質(QOL)や自立した生活能力に影響することが示されています(※3)。

テストステロンと筋肉の関係

テストステロンには同化(タンパク質合成促進)作用があり、筋肉量の維持に関与することが知られています(※4)。LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)(→ #1)の状態では筋肉量の低下が起きやすい可能性がありますが、テストステロンだけが原因ではなく、運動不足・栄養不良・慢性疾患なども大きく関与します。

テストステロン補充療法(TRT)の筋肉への効果については研究がありますが、治療が必要かどうかの判断は専門医が行います(→ #7)。

運動:レジスタンス運動の基本

筋肉量・筋力の維持・改善に最も効果的なエビデンスがある運動は、レジスタンス運動(筋力トレーニング)です(※5)。

  • 頻度:週2〜3回が目安
  • 内容:自重(スクワット・腕立て伏せ)から始め、慣れたら軽い負荷をかける
  • 注意:関節痛がある場合は整形外科・理学療法士に相談してから開始する(→ #29)

有酸素運動(ウォーキング・水泳など)も筋肉の質・心肺機能・代謝に有益です。両方を組み合わせることが推奨されます。

タンパク質:量とタイミング

筋肉合成には十分なタンパク質摂取が必要です(※1)。

  • 目安:体重1kgあたり1.2〜1.6g/日(活動量・年齢により異なる)
  • 食事例:鶏むね肉・魚・卵・大豆製品・乳製品など
  • タイミング:運動後30〜60分以内の摂取が合成効率が高いとする報告がある

腎機能に問題がある場合はタンパク質摂取の制限が必要なことがあるため、持病のある方は医師・管理栄養士への相談が先決です。

睡眠と筋肉の回復

筋肉の回復・合成は睡眠中に促進されます(→ 睡眠シリーズ sleep #1 参照)。睡眠の質の低下はテストステロン産生にも影響するとされており(※6)、睡眠・運動・栄養の三つを同時に整えることが重要です(→ #8)。


今日から試せる行動

  • 週2回、10〜15分のスクワット・腕立て伏せなどの自重トレーニングを試してみる
  • 毎食で「タンパク質が含まれているか」を意識する(卵・魚・豆腐など)
  • 体組成計(体脂肪・筋肉量が測れるもの)で月1回の変化を確認する
  • 睡眠が不規則な場合は、まずそちらの改善から始める(→ 睡眠シリーズ sleep #1 参照)

受診・紹介の目安

以下の場合は受診を検討してください。

  • 赤旗症状:数か月で著しい体重・筋肉量の減少がある(悪性疾患などの除外が必要)
  • 赤旗症状:筋肉の脱力・麻痺・感覚障害がある(神経・筋疾患の可能性)
  • 転倒を繰り返す・歩行が不安定になってきた(→ 整形外科・リハビリ科)
  • 関節痛や炎症が運動を妨げている(→ #32・整形外科)
  • 腎機能や他の持病があり、食事制限があるが筋肉量改善もしたい(→ 医師・管理栄養士への相談)

免責

本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の診断・治療の代替ではありません。運動や栄養の具体的な内容については、医師・理学療法士・管理栄養士にご相談ください。


参考文献

国内文献

※2 日本サルコペニア・フレイル学会「サルコペニア診療ガイドライン」(最新版参照)
※3 厚生労働省「高齢者の低栄養・サルコペニア予防に関するガイドライン」

国際文献

※1 Morton RW, et al. A systematic review, meta-analysis and meta-regression of the effect of protein supplementation on resistance training-induced gains in muscle mass and strength in healthy adults. Br J Sports Med. 2018;52(6):376-384.
※4 Bhasin S, et al. Testosterone therapy in men with androgen deficiency syndromes. J Clin Endocrinol Metab. 2010;95(6):2536-2559.
※5 Peterson MD, et al. Resistance exercise for muscular strength in older adults: a meta-analysis. Ageing Res Rev. 2010;9(3):226-237.
※6 Leproult R, Van Cauter E. Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men. JAMA. 2011;305(21):2173-2174.