テストステロン補充療法(TRT)とは——始める前に知っておきたい基本
結論(先に)
TRT(Testosterone Replacement Therapy:テストステロン補充療法)は、LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)の症状改善を目的とした治療の一つです。注射・ゲル・貼付剤など複数の投与方法があり、適応・禁忌は医師が個別に判断します。「TRTをすれば必ず改善する」ということはなく、効果や安全性には個人差があります。まず相談することが最初のステップです。
読者の状況
- LOH症候群と診断または疑われ、TRTについて詳しく知りたい
- TRTという言葉を聞いたが、どんな治療かイメージできない
- 治療を始めるかどうか迷っており、リスクと効果を整理したい
- 副作用や禁忌が気になっている
- 「ホルモン治療」に対して漠然とした不安がある
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| TRTは全員に効く万能な治療 | 効果には個人差があり、適応は医師が症状・血液検査を総合して判断する |
| TRTを始めたら一生続ける必要がある | 治療期間・中止のタイミングは医師と相談して決定する |
| TRTは前立腺がんのリスクを必ず上げる | 既存の前立腺がんへの影響は懸念されるが、健常者での発がんリスク増加は確立していない(※3) |
| 市販のサプリでテストステロンを補充できる | 医療用TRTとは異なり、効果・安全性は保証されていない |
根拠に基づく一般向け整理
TRTの概要
TRT(テストステロン補充療法)は、血中テストステロン値が低値であり、かつLOH症候群の症状が確認される場合に考慮される治療です(※1)。テストステロンを外から補うことで、倦怠感・気力低下・性機能症状などの改善を目指します。ただし、テストステロン値が低くても症状がない場合、または症状があってもテストステロン値が正常範囲の場合は、TRTの適応にならないことがあります(※2)。
投与方法の種類
現在日本で利用可能な主な投与方法は以下の通りです(※1)。
筋肉注射
- 2〜4週に1回の通院が必要
- 投与後に血中濃度が上昇し、次回投与前に低下する「波」がある
- 確実な投与量管理がしやすい
ゲル剤(外用)
- 毎日、腹部・肩・上腕などに塗布する
- 血中濃度の変動が注射より少ない
- 家族(特に女性・子ども)への接触感染予防が必要
貼付剤(外用)
- 毎日、皮膚に貼る
- ゲル剤と同様に血中濃度が安定しやすい
- 皮膚かぶれが生じることがある
どの方法が適するかは、生活スタイル・通院頻度・皮膚状態などを考慮して医師と相談します。
適応と禁忌(医師が判断する)
TRTの適応・禁忌は医師が個別に評価します。以下は一般的に知られている主な事項です(※1、※2)。
一般的な適応の目安
- LOH症候群の症状があること
- 血中テストステロン値が低値であること
- 他の原因が除外されていること
一般的な禁忌・慎重投与の例
- 前立腺がん・乳がんの既往または疑いがある場合
- 多血症(ヘマトクリット値が高い場合)
- 重篤な心疾患・肝疾患
- 妊娠を希望している(TRTは精子産生を抑制する可能性がある)
- 睡眠時無呼吸症候群が未治療の場合(増悪のリスク)
これらの判断は血液検査・問診・画像検査などをもとに医師が行います。自己判断での開始・中止はしないようにしてください。
治療の開始後に起こりうること
TRTを開始した場合、効果が実感されるまでに数週間〜数か月かかることがあります(※2)。体感の変化(気力・睡眠・性機能など)と血液検査値の両方を定期的に確認しながら、治療を継続するかどうかを医師と一緒に評価します(→ #17)。
今日から試せる行動
- AMSスコアを記入し、症状の全体像を整理してから受診する(→ #2)
- 「TRTを受けたい」ではなく「症状と血液検査を相談したい」という姿勢で受診する
- 現在服用中の薬・既往症(特に前立腺・心臓・肝臓に関わるもの)をリストアップしておく
- パートナーがいる場合は、治療についての考えを事前に共有しておく
受診・紹介の目安
以下の場合は、早めに医療機関への相談をお勧めします。
- LOH症候群が疑われ、TRTについて詳しく聞きたい(泌尿器科・Men’s Health外来)
- 前立腺に関する既往・症状がある(泌尿器科での精査が先決)
- 精子・妊孕性の温存を希望している(TRTの影響について相談が必要)
- TRTを自己判断で開始・中止している(医師による管理が必要)
受診先の目安:泌尿器科、Men’s Health外来
免責
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療方針の決定に代わるものではありません。TRTの適応・禁忌は医師が判断します。症状が気になる場合は必ず医療機関を受診してください。
参考文献
国内文献
- ※1:日本泌尿器科学会・日本Men’s Health医学会「LOH症候群診療ガイドライン(2022年版)」
- ※2:日本Men’s Health医学会「男性更年期障害(LOH症候群)に関する啓発資料」
国際文献
- ※3:Bhasin S, et al. “Testosterone Therapy in Men with Hypogonadism: An Endocrine Society Clinical Practice Guideline.” J Clin Endocrinol Metab. 2018;103(5):1715–1744.
- ※4:Lunenfeld B, et al. “Recommendations on the diagnosis, treatment and monitoring of hypogonadism in men.” Aging Male. 2021;24(1):1–34.
- ※5:Snyder PJ, et al. “Effects of Testosterone Treatment in Older Men.” N Engl J Med. 2016;374(7):611–624.