睡眠の悪化と加齢男性のからだ——接点を整理する
結論(先に)
睡眠の悪化は「歳のせい」だけでは説明できない場合があります。加齢男性における睡眠変化の背景には、LOH症候群(Late-Onset Hypogonadism:加齢男性性腺機能低下症候群)・睡眠時無呼吸症候群・夜間頻尿・うつ病など複数の要因が重なりやすい傾向があります。睡眠の問題とからだ全体の変化を切り離さずに捉えることが、改善への第一歩です。
読者の状況
- 「最近、夜中に目が覚えるようになった」「朝起きても疲れが取れない」
- 「眠れない」以外にも、気力・体力の低下も感じている
- 40〜60代男性で、睡眠に関する悩みを誰かに相談したことがない
- 「男性更年期」を調べていて、睡眠との関係が気になった
- 睡眠薬を飲んでいるが効きが悪くなってきた気がしている
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 睡眠が浅くなるのは年齢のせいで仕方ない | 治療可能な原因(無呼吸・頻尿・ホルモン変化など)が隠れている場合がある |
| 睡眠の問題は睡眠だけの問題 | LOH症候群・うつ・メタボなど全身の状態と深く連動する(→ #1、→ #21) |
| 睡眠薬を飲めば解決する | 原因によっては行動療法(CBT-I)や原疾患の治療が有効なことがある |
根拠に基づく一般向け整理
加齢と睡眠の変化
加齢にともない、深い睡眠(ノンレム睡眠のステージ3)が減少し、睡眠が分断されやすくなることが知られています(※1)。これは一定程度の生理的変化ですが、「眠れなくて困っている」状態は生理的変化の範囲を超えており、評価・対処が必要です。
LOH症候群と睡眠の接点
テストステロン(Testosterone)は睡眠の深さ(特に深いノンレム睡眠)と関連する可能性が指摘されています(※2)。テストステロンが低下すると睡眠の質が下がり、逆に睡眠不足がさらにテストステロンを低下させる悪循環が生じる可能性があります(※3)。
睡眠時無呼吸症候群(SAS)との関係
睡眠時無呼吸症候群(SAS:Sleep Apnea Syndrome)は中年男性に多く見られる疾患で、いびき・日中の眠気・夜間の頻繁な覚醒を引き起こします(※4)。SASはテストステロン低下とも関連するとされており(※5)、どちらか一方だけ治療しても改善が不十分な場合があります。LOH症候群が疑われる場合は、SASの評価も合わせて行うことが推奨されることがあります(→ 睡眠シリーズ #34)。
夜間頻尿と睡眠(→ #9)
夜中に何度もトイレに起きる「夜間頻尿」は、睡眠分断の主要な原因の一つです。前立腺肥大症・過活動膀胱・LOH症候群・心疾患など多くの原因が考えられ、泌尿器科的評価が有益です(→ #9)。
CBT-I(認知行動療法)について
不眠症に対する認知行動療法(CBT-I:Cognitive Behavioral Therapy for Insomnia)は、薬に頼らない治療として国際的に推奨される方法です(※1)。睡眠ブログシリーズではCBT-Iの詳細を扱っています(→ 睡眠シリーズ #8 など)。
今日から試せる行動
- 「何時間眠れたか」より「何回目が覚めたか」「朝の疲れ感」を記録する
- いびきや日中の強い眠気があれば、睡眠時無呼吸の可能性を医師に伝える
- 就寝1時間前のスマートフォン・アルコールを控える
- 睡眠の問題と同時に「活力・気力の変化」も医師に伝える(→ #1、→ #3)
受診・紹介の目安
- いびきがひどい・日中に強い眠気がある(睡眠時無呼吸の評価:呼吸器科・耳鼻咽喉科・睡眠専門外来)
- 夜間頻尿が週3回以上(泌尿器科:→ #8)
- 不眠が1カ月以上続いて日常生活に支障が出ている(睡眠外来・精神科・心療内科)
- 睡眠の悪化と並行してLOH症候群の症状もある(Men’s Health外来・泌尿器科)
免責
本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、個別の診断・治療の判断に代わるものではありません。症状が気になる場合は医療機関を受診してください。
参考文献
国内文献
- ※1:日本睡眠学会「不眠症診療ガイドライン(2023年版)」
- ※2:日本泌尿器科学会・日本Men’s Health医学会「LOH症候群診療ガイドライン(2022年版)」
国際文献
- ※3:Leproult R, Van Cauter E. “Effect of 1 week of sleep restriction on testosterone levels in young healthy men.” JAMA. 2011;305(21):2173–2174.
- ※4:Punjabi NM. “The epidemiology of adult obstructive sleep apnea.” Proc Am Thorac Soc. 2008;5(2):136–143.
- ※5:Gambineri A, et al. “Obese patients with obstructive sleep apnoea syndrome show a peculiar alteration of the corticotroph but not of the somatotroph, thyreotroph and gonadotroph functions.” Eur J Endocrinol. 2002;146(4):499–507.