女性の更年期 #35

更年期うつと「ふつうのうつ」の見分け方——婦人科か精神科か迷ったら


結論(先に)

更年期に多い抑うつ気分は、ホルモン変動・睡眠障害・生活環境の変化が絡み合った状態です。一方で、DSM基準を満たす「大うつ病エピソード」は専門的な精神科・心療内科的対応が必要です。「身体症状が主かどうか」が最初の分岐点になりますが、判断に迷う場合は婦人科と精神科の連携を活用してください(→ #4)。


読者の状況

  • 気分の落ち込みが続いているが、更年期のせいなのか「うつ病」なのか区別がつかない
  • 「婦人科に行くべきか、精神科に行くべきか」で受診をためらっている
  • HRTを始めてから気分は改善したが、完全には戻らない
  • 以前うつ病と診断されたことがあり、更年期との関係が気になる
  • 家族や周囲に「気のせい」と言われ、一人で抱えている

よくある誤解

誤解実際
更年期の落ち込みは「仕方ない」ので治療しなくてよい治療や生活調整で改善できる余地がある。放置は長期化のリスクになることがある
精神科に行くほどではないから婦人科でいいうつ症状の重さによっては精神科・心療内科の早期介入が必要なケースもある
うつ病の薬(抗うつ薬)を飲めばすべて解決する更年期うつにはホルモン関連要因もあり、HRTが有効なことがある(専門医判断)
更年期が終われば自然に治る大うつ病エピソードは更年期終了後も持続することがある

根拠に基づく一般向け整理

更年期の気分変動とは

閉経周辺期には、エストロゲンの変動が脳内のセロトニン・ノルアドレナリン系に影響を与え、気分の不安定さ・イライラ・涙もろさ・意欲低下が生じやすくなるとされています(※1)(※2)。これは「更年期関連の抑うつ症状」であり、精神医学的に診断されるうつ病(大うつ病エピソード)とは異なる病態です。

ただし、両者は重なり合うこともあり、「どちらかに決める」より「どちらの要素があるか」という視点が現実的です(※2)。

DSM診断基準のうつ病との違い

「大うつ病エピソード」は、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)では以下のような基準で定義されます(※3):

  • 2週間以上にわたる抑うつ気分または興味・喜びの消失
  • 睡眠変化・食欲変化・疲労感・集中困難・自己評価の低下・希死念慮などを伴う
  • これらが日常生活に著しい障害をもたらしている

更年期の気分変動では、身体症状(ほてり・不眠・倦怠感)が先に来て、気分の不調が続くことが多いとされます。一方、大うつ病では気分・意欲の低下が中心になることが多い傾向があります(※1)(※2)。

「婦人科か精神科か」の判断の目安

婦人科・更年期外来が先になることが多いケース精神科・心療内科が先、または同時受診を検討するケース
身体症状(ほてり・不眠・倦怠感)が主で、気分の落ち込みが伴っている希死念慮・自傷行為がある
月経不順・閉経の前後から症状が始まった2週間以上、意欲・興味がほぼ消失している
HRTで気分の改善が見られた経験がある食事がほとんど取れない・体重減少が著しい
以前の精神症状の既往がなく初めての抑うつ過去に双極性障害・大うつ病の診断を受けたことがある

この表はあくまで目安であり、個人の状況によって判断は変わります。判断に迷う場合は、どちらに受診しても「もう一方への紹介」ができる体制が多くの医療機関にあります(→ #4)。

ホルモンと精神科薬の選択

更年期に関連した抑うつには、HRTが一定の効果を持つ場合があるとされています(※1)。一方で、大うつ病エピソードが主体の場合は抗うつ薬などの精神科的治療が中心になります。「どちらかしか使えない」わけではなく、両科が連携して対応するケースもあります(※2)。

睡眠との関係

更年期の不眠は抑うつ症状を悪化させ、抑うつが不眠を深める相互作用があります(→ sleep #6 参照)。睡眠の改善が気分安定に寄与することもあり、両面からのアプローチが有効なことがあります。


今日から試せる行動

  • 気分の落ち込みが「身体症状(ほてり・不眠)と一緒に始まったか」「そうでないか」を振り返る
  • SMIの「抑うつ気分」の項目(→ #31)をスコア化し、受診時に持参する
  • 「婦人科に行くべきか精神科に行くべきかわからない」という状態でも受診していい、と知っておく
  • 希死念慮・自傷がある場合は今すぐ相談窓口か救急に連絡する(下記参照)

受診・紹介の目安

以下の場合は今すぐ、または緊急で対応を:

  • 死にたい気持ち・自傷の考えがある → 精神科救急・いのちの電話(0570-783-556)・かかりつけ医への即時連絡
  • 食事がほとんど取れない、急激な体重減少がある
  • 日常生活(起床・通勤・家事)が2週間以上ほぼできていない

以下の場合は早めに受診を:

  • 気分の落ち込み・意欲低下が2週間以上続いている
  • 「死にたいわけではないが消えてしまいたい」という気持ちが続く
  • 周囲への関心・趣味への興味が著しく低下した
  • 身体症状と精神症状の両方があり、どちらに受診すべきか迷っている

免責

本記事は一般向けの健康情報であり、個人の診断・治療の代替ではありません。精神症状の評価・治療は必ず専門医にご相談ください。希死念慮・自傷がある場合は、本記事ではなく医療機関・相談窓口に連絡してください。


参考文献

国内文献

  • ※4:河端恵美子「現代女性と更年期障害」公衆衛生 2010年74巻2号(201002_公衆衛生 現代の更年期
  • ※5:寺内公一「更年期外来」内科 2021年127巻5号(202105_内科臨床と性差/更年期外来.pdf

国際文献

  • ※1:Soares CN. Depression and Menopause: Current Knowledge and Clinical Recommendations for a Critical Window. Psychiatr Clin North Am. 2017;40(2):239-254.
  • ※2:Bromberger JT, Epperson CN. Depression During and After the Perimenopause: Impact of Hormones, Sleep, and Menopause Symptoms. Obstet Gynecol Clin North Am. 2018;45(4):663-678.
  • ※3:American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5). Arlington, VA: APA; 2013.