更年期うつと「ふつうのうつ」の見分け方——婦人科か精神科か迷ったら
結論(先に)
更年期に多い抑うつ気分は、ホルモン変動・睡眠障害・生活環境の変化が絡み合った状態です。一方で、DSM基準を満たす「大うつ病エピソード」は専門的な精神科・心療内科的対応が必要です。「身体症状が主かどうか」が最初の分岐点になりますが、判断に迷う場合は婦人科と精神科の連携を活用してください(→ #4)。
読者の状況
- 気分の落ち込みが続いているが、更年期のせいなのか「うつ病」なのか区別がつかない
- 「婦人科に行くべきか、精神科に行くべきか」で受診をためらっている
- HRTを始めてから気分は改善したが、完全には戻らない
- 以前うつ病と診断されたことがあり、更年期との関係が気になる
- 家族や周囲に「気のせい」と言われ、一人で抱えている
よくある誤解
| 誤解 | 実際 |
|---|---|
| 更年期の落ち込みは「仕方ない」ので治療しなくてよい | 治療や生活調整で改善できる余地がある。放置は長期化のリスクになることがある |
| 精神科に行くほどではないから婦人科でいい | うつ症状の重さによっては精神科・心療内科の早期介入が必要なケースもある |
| うつ病の薬(抗うつ薬)を飲めばすべて解決する | 更年期うつにはホルモン関連要因もあり、HRTが有効なことがある(専門医判断) |
| 更年期が終われば自然に治る | 大うつ病エピソードは更年期終了後も持続することがある |
根拠に基づく一般向け整理
更年期の気分変動とは
閉経周辺期には、エストロゲンの変動が脳内のセロトニン・ノルアドレナリン系に影響を与え、気分の不安定さ・イライラ・涙もろさ・意欲低下が生じやすくなるとされています(※1)(※2)。これは「更年期関連の抑うつ症状」であり、精神医学的に診断されるうつ病(大うつ病エピソード)とは異なる病態です。
ただし、両者は重なり合うこともあり、「どちらかに決める」より「どちらの要素があるか」という視点が現実的です(※2)。
DSM診断基準のうつ病との違い
「大うつ病エピソード」は、DSM(精神疾患の診断・統計マニュアル)では以下のような基準で定義されます(※3):
- 2週間以上にわたる抑うつ気分または興味・喜びの消失
- 睡眠変化・食欲変化・疲労感・集中困難・自己評価の低下・希死念慮などを伴う
- これらが日常生活に著しい障害をもたらしている
更年期の気分変動では、身体症状(ほてり・不眠・倦怠感)が先に来て、気分の不調が続くことが多いとされます。一方、大うつ病では気分・意欲の低下が中心になることが多い傾向があります(※1)(※2)。
「婦人科か精神科か」の判断の目安
| 婦人科・更年期外来が先になることが多いケース | 精神科・心療内科が先、または同時受診を検討するケース |
|---|---|
| 身体症状(ほてり・不眠・倦怠感)が主で、気分の落ち込みが伴っている | 希死念慮・自傷行為がある |
| 月経不順・閉経の前後から症状が始まった | 2週間以上、意欲・興味がほぼ消失している |
| HRTで気分の改善が見られた経験がある | 食事がほとんど取れない・体重減少が著しい |
| 以前の精神症状の既往がなく初めての抑うつ | 過去に双極性障害・大うつ病の診断を受けたことがある |
この表はあくまで目安であり、個人の状況によって判断は変わります。判断に迷う場合は、どちらに受診しても「もう一方への紹介」ができる体制が多くの医療機関にあります(→ #4)。
ホルモンと精神科薬の選択
更年期に関連した抑うつには、HRTが一定の効果を持つ場合があるとされています(※1)。一方で、大うつ病エピソードが主体の場合は抗うつ薬などの精神科的治療が中心になります。「どちらかしか使えない」わけではなく、両科が連携して対応するケースもあります(※2)。
睡眠との関係
更年期の不眠は抑うつ症状を悪化させ、抑うつが不眠を深める相互作用があります(→ sleep #6 参照)。睡眠の改善が気分安定に寄与することもあり、両面からのアプローチが有効なことがあります。
今日から試せる行動
- 気分の落ち込みが「身体症状(ほてり・不眠)と一緒に始まったか」「そうでないか」を振り返る
- SMIの「抑うつ気分」の項目(→ #31)をスコア化し、受診時に持参する
- 「婦人科に行くべきか精神科に行くべきかわからない」という状態でも受診していい、と知っておく
- 希死念慮・自傷がある場合は今すぐ相談窓口か救急に連絡する(下記参照)
受診・紹介の目安
以下の場合は今すぐ、または緊急で対応を:
- 死にたい気持ち・自傷の考えがある → 精神科救急・いのちの電話(0570-783-556)・かかりつけ医への即時連絡
- 食事がほとんど取れない、急激な体重減少がある
- 日常生活(起床・通勤・家事)が2週間以上ほぼできていない
以下の場合は早めに受診を:
- 気分の落ち込み・意欲低下が2週間以上続いている
- 「死にたいわけではないが消えてしまいたい」という気持ちが続く
- 周囲への関心・趣味への興味が著しく低下した
- 身体症状と精神症状の両方があり、どちらに受診すべきか迷っている
免責
本記事は一般向けの健康情報であり、個人の診断・治療の代替ではありません。精神症状の評価・治療は必ず専門医にご相談ください。希死念慮・自傷がある場合は、本記事ではなく医療機関・相談窓口に連絡してください。
参考文献
国内文献
- ※4:河端恵美子「現代女性と更年期障害」公衆衛生 2010年74巻2号(
201002_公衆衛生 現代の更年期) - ※5:寺内公一「更年期外来」内科 2021年127巻5号(
202105_内科臨床と性差/更年期外来.pdf)
国際文献
- ※1:Soares CN. Depression and Menopause: Current Knowledge and Clinical Recommendations for a Critical Window. Psychiatr Clin North Am. 2017;40(2):239-254.
- ※2:Bromberger JT, Epperson CN. Depression During and After the Perimenopause: Impact of Hormones, Sleep, and Menopause Symptoms. Obstet Gynecol Clin North Am. 2018;45(4):663-678.
- ※3:American Psychiatric Association. Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, Fifth Edition (DSM-5). Arlington, VA: APA; 2013.