女性の更年期 #22

心血管リスクと女性のライフステージ——閉経後に知っておきたいこと


結論(先に)

閉経前の女性は心血管疾患リスクが比較的低いとされてきましたが、閉経後はエストロゲン保護の減少に伴い、LDLコレステロール上昇や血圧上昇などが起きやすくなる可能性があります(※1)。ただし「閉経=心臓病になる」ではなく、個人差が大きくリスク管理は内科・婦人科の連携で行うものです。「年に一度の健診」を受診のきっかけとして活用することをお勧めします(→ #40)。


読者の状況

  • 閉経後から健診でコレステロール・血圧を指摘されるようになった
  • 「更年期が終わったら心臓の病気が増える」と聞いたが詳細がわからない
  • 動悸が続いており、更年期症状なのか心臓の問題なのか判断がつかない
  • 親が心筋梗塞・脳卒中を経験しており、自分も心配している
  • HRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)が心臓に影響するか気になる

よくある誤解

誤解実際
女性は心臓病にならない閉経後は男性と同程度のリスクに近づく可能性があるとされる(※1)
動悸は更年期症状だから内科は不要動悸・胸痛・息切れは心臓の問題を除外する必要があり、内科受診が先になることがある(※2)
コレステロールは薬で下げるだけでよい食事・運動・体重管理などの生活習慣改善が基本となる(※3)(→ #17)
HRTは心臓に悪い年齢・使用開始時期・製剤の種類によって影響が異なり、一般化は難しい。専門医への相談が必要(※1)

根拠に基づく一般向け整理

閉経後に心血管リスクが変化する背景

エストロゲンには以下のような心血管保護作用があるとされています(※1)。

  • LDLコレステロールを低下させ、HDLコレステロールを高める働き
  • 血管内皮細胞の機能維持を助け、動脈硬化を抑制する可能性
  • 血圧調整に関与するレニン・アンジオテンシン系への影響

閉経後にエストロゲンが低下すると、これらの保護が失われていく可能性があり、LDL上昇・血圧上昇・動脈硬化進行のリスクが高まることがあるとされています(※1)。ただし個人差が大きく、すべての人に同様の変化が起きるわけではありません。

LDLコレステロールと閉経

国内の研究でも、閉経後の女性においてLDLコレステロール値が上昇しやすいことが報告されています(※2)。更年期外来への受診者の中に、「健診で初めてコレステロールを指摘された」という方が一定数含まれており、婦人科・内科の連携が重要な場面の一つです。

脂質異常については生活習慣の改善(食事・運動)が基本であり、薬物療法の要否は内科医が判断します(→ #24 で詳細)。

高血圧と閉経

閉経後は収縮期血圧が上昇しやすくなることが知られています(※1)。更年期のほてり・動悸は血圧変動を伴うことがあり、「更年期症状か高血圧か」の判断が難しいケースがあります。家庭での血圧測定(朝起きて2分後・夜就寝前)を習慣化し、記録を持参して内科・婦人科に相談することをお勧めします(※3)。

動悸の鑑別

更年期の動悸は血管運動症状の一部として起きることがありますが、以下の場合は心臓の問題を先に除外することが重要です(※2)。

  • 突然の激しい動悸・胸痛・息切れが出た
  • 脈が不規則に感じる(→ 不整脈の可能性)
  • 動悸に失神・前失神が伴う

これらがある場合は内科・循環器科への受診が優先されます。

内科との連携

心血管リスク管理は婦人科単独ではなく、内科(特に循環器内科・脂質代謝)との連携で行うものです(※3)。定期的な健診での血圧・コレステロール・血糖の確認を継続することが、長期的なリスク管理の基本となります(→ #40)。


今日から試せる行動

  • 自宅で朝晩の血圧を測定し、1週間分を記録する
  • 最後の健診の結果票を取り出し、コレステロール・血圧・血糖の数値を確認する
  • 歩く・階段を使うなど、日常の身体活動を少し増やす(→ #17 も参照)
  • 動悸が気になる場合は、内科受診の予約を先に入れる

受診・紹介の目安

以下の場合は早めに内科・循環器科への受診をお勧めします。

  • 赤旗症状:突然の激しい動悸・胸痛・息切れ(救急対応が必要な場合がある)
  • 赤旗症状:脈が不規則・失神またはその前兆がある
  • 家庭血圧で収縮期140mmHg以上が複数回続いている
  • 健診でLDLコレステロール160mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL未満を指摘された
  • 糖尿病・喫煙・家族歴など複数のリスク因子が重なっている

更年期症状も同時に気になる場合は、内科受診後に婦人科へのご相談もご検討ください。


免責

本記事は一般向けの健康教育を目的としており、個別の診断・治療方針を保証するものではありません。症状が気になる場合は医療機関を受診してください。


参考文献

国内文献

  • ※1 河端恵美子. 現代女性と更年期障害. 公衆衛生 2010; 74(2): 99–108.
  • ※2 日本動脈硬化学会. 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版. 2022.

国際文献

  • ※3 Boardman HM, et al. Hormone therapy for preventing cardiovascular disease in post-menopausal women. Cochrane Database Syst Rev 2015; (3): CD002229.
  • ※4 Appiah D, et al. Cardiovascular disease risk and menopause: an epidemiological review. J Clin Endocrinol Metab 2021; 106(3): e1375–e1385.