女性の更年期 #12

HRTが向かない人・禁忌の話は専門医領域


結論(先に)

HRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)にはいくつかの禁忌・慎重投与の状況があります。乳がんの既往・血栓症の既往・原因不明の不正出血などがその代表です。しかし「禁忌かどうか」の判断は複雑であり、既往症があるから絶対に使えないわけでも、なければ必ず安全なわけでもありません。この記事は禁忌の概要を知るための情報提供であり、個人の状況に当てはまるかどうかは専門医との相談で判断します。


読者の状況

  • HRTを検討したいが、自分に禁忌があるか不安
  • 乳がんや血栓症の家族歴があり、HRTを使ってよいか迷っている
  • 過去に血栓症・脳卒中があったが更年期症状がつらい
  • 医師に「使えない」と言われたが理由が分からなかった
  • HRTのリスクを知ったうえで相談したい

よくある誤解

誤解実際
禁忌があればすべてHRTは使えない状況・剤形・投与方法によって判断が変わることがある
乳がん家族歴があればHRTは禁忌「家族歴」は禁忌ではないが、リスク評価が重要
禁忌かどうか自分で判断できる複数の条件が絡み合うため、専門医の評価が必須
禁忌の人は何も治療できないHRT以外の選択肢(漢方・非ホルモン療法)がある

根拠に基づく一般向け整理

HRTの主な禁忌(絶対禁忌)

以下の状況は、一般的にHRTの絶対禁忌とされています(※1):

  • 乳がんの既往または現在の治療中
  • エストロゲン依存性腫瘍(子宮体がんなど)の既往
  • 原因不明の性器出血
  • 活動性の血栓塞栓症(深部静脈血栓症・肺塞栓症)
  • 急性肝疾患または重篤な肝機能障害
  • 妊娠

これらに当てはまる場合は、HRTは使用しないのが原則とされています。

慎重投与・要相談の状況

以下は禁忌ではなく「慎重に検討が必要」な状況です(※1、※2):

  • 乳がんの家族歴:禁忌ではないが、リスク評価を丁寧に行う
  • 血栓症の既往歴:剤形(特に貼付薬)によってリスクが異なる可能性がある
  • 高血圧・糖尿病・肥満:コントロールを確認しながら使用を検討
  • 偏頭痛(特に閃輝暗点を伴う片頭痛):脳卒中リスクの観点から慎重に評価
  • 胆嚢疾患の既往:内服薬では胆石リスクが上がる可能性がある

禁忌でも使える代替療法

HRTが使えない・使いたくない場合の選択肢(※3):

  • 漢方薬(加味逍遙散・桂枝茯苓丸など)
  • SSRI/SNRI の一部:ほてりへの効果が報告されている(乳がん既往の場合は一部のSNRIが使われることがある)
  • 認知行動療法(CBT):症状の苦痛を軽減する心理的アプローチ
  • 生活習慣の改善(→ #3)
  • 局所エストロゲン:腟症状(GSM)に限定して使用。全身への影響が少ないとされる(→ #33)

禁忌の判断は専門医が行う

同じ「乳がん既往」でも、種類・ステージ・治療終了からの期間・使用する剤形によって判断が変わる場合があります。インターネットで「禁忌かどうか」を自己判断するには限界があります。まず専門医(婦人科・更年期外来・腫瘍内科)への相談が出発点です(→ #10 → #13)。


今日から試せる行動

  • 自分の既往症・家族歴・現在の薬のリストを整理する
  • 「禁忌があるかもしれない」という心配があれば、まず更年期外来に相談する
  • HRT以外の選択肢についても事前に情報を集めておく(→ #3)

受診・紹介の目安

以下の状況がある場合は、専門医(婦人科・腫瘍婦人科・更年期外来)への相談を優先してください:

  • 乳がん・子宮体がんの既往または治療中
  • 血栓症・脳卒中・心筋梗塞の既往
  • 原因不明の不正出血(→ #9)
  • 「HRTを使いたいが使えない」という状況での代替手段の相談

免責

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、HRTの処方・禁忌の判定を行うものではありません。個人の状況に対する判断はすべて専門医が行います。記載は執筆時点の情報であり、最新のガイドラインとは異なる場合があります。


参考文献

国内文献

  • ※1:日本産科婦人科学会・日本女性医学学会「女性更年期医療ガイドライン 2023年版」

国際文献

  • ※2:The Menopause Society. “Hormone therapy position statement 2022.” Menopause. 2022;29(7):767-794.
  • ※3:Loprinzi CL, et al. “Nonestrogenic management of hot flashes.” J Clin Oncol. 2021;39(28):3184-3197.