女性の更年期 #11

ホルモン補充療法(HRT)を「調べた人」向けの入口


結論(先に)

HRT(Hormone Replacement Therapy:ホルモン補充療法)は、更年期のほてり・発汗・睡眠障害・気分変動など幅広い症状に対して効果が示されている治療法です。「危険」というイメージが根強いですが、適切な評価のうえで使う場合のリスク・ベネフィットのバランスは、多くの人にとって受け入れやすいものとされています。剤形や投与方法はいくつかの選択肢があり、どれが合うかは専門医との相談で決まります。この記事はHRTへの理解を深めるための入口です。


読者の状況

  • HRTという言葉は知っているが、詳しく調べたことがない
  • 怖いという印象があるが、症状がつらくて選択肢として考えたい
  • 「どんな薬か」「どう使うか」を知ったうえで相談したい
  • 医師に相談する前に基礎知識を整理しておきたい
  • 副作用・禁忌が心配で踏み出せない

よくある誤解

誤解実際
HRTはすべての人に危険リスクは個人の状況・投与方法・使用期間によって異なる
HRTは乳がんを確実に起こす乳がんリスクは使用方法・期間によって異なり、一律に高いわけではない(→ #12 → #32)
HRTは一度始めたら一生続ける治療目標・状況に応じて期間を設定する。中断・変更も可能
HRTは飲み薬しかない貼付薬・ゲル・内服など複数の剤形がある

根拠に基づく一般向け整理

HRTとは何か

HRTは、更年期のエストロゲン低下を補充することで症状を改善する治療法です(※1)。子宮のある女性では、エストロゲン単独投与による子宮内膜増殖リスクを避けるため、黄体ホルモン(プロゲステロン)を併用します。子宮のない女性(子宮全摘後)はエストロゲン単独が用いられることがあります。

HRTで改善が期待できる症状

  • ほてり・発汗(血管運動症状)(→ #3)
  • 睡眠障害・夜間の発汗(→ sleep #6)
  • 気分の不安定さ・抑うつ感(→ #4)
  • 腟の乾燥感・性交痛・頻尿(GSM)(→ #33)
  • 骨密度の維持(→ #36)

剤形の種類(概要)

HRTの剤形にはいくつかの種類があります(※2)。どれが適切かは症状・生活習慣・既往症によって専門医が判断します。

貼付薬(パッチ)

  • 皮膚から吸収され、肝臓での代謝を経由しにくい
  • 1〜2回/週の貼り替え

ゲル剤

  • 皮膚に塗布するタイプ。量の調整がしやすい

内服薬(錠剤)

  • 最も歴史のある投与方法
  • 肝臓を経由するため、一部の血栓リスクが貼付・ゲルより高いとされる場合がある(※3)

腟内投与(局所エストロゲン)

  • 腟の乾燥・性交痛・頻尿に対して局所的に使用
  • 全身への影響が少ないとされる

リスクについての概要

乳がん・血栓症・脳卒中のリスクに関する情報は広く知られています。これらのリスクの実際は使用開始年齢・期間・剤形・個人の既往症によって大きく異なります(※1)。詳細は専門医との個別相談で確認します(→ #12 → #32)。

始める前に確認すること

HRTを検討する前に以下の確認が行われます(→ #12):

  • 乳がん既往・家族歴の確認
  • 血栓症・脳血管疾患の既往
  • 子宮・卵巣の評価(超音波・内膜評価)
  • 乳がん検診・婦人科検診の状況(→ #9)
  • 血圧・血液検査

今日から試せる行動

  • HRTについて「何が疑問か」を書き出してみる
  • 自分の禁忌に当たりそうな状況があるかを確認する(→ #12)
  • 症状が日常生活に支障を与えているかを評価する(→ #31)
  • 更年期外来での相談を予約する(→ #10)

受診・紹介の目安

HRTの適応・処方・管理はすべて専門医の判断によります。症状が続く場合は更年期外来・婦人科への受診をご検討ください。禁忌に当たる可能性がある場合(乳がん既往・血栓症既往など)も、必ず専門医に相談のうえ評価を受けてください(→ #12)。


免責

本記事は一般的な健康情報の提供を目的としており、HRTの処方・治療方針の決定を行うものではありません。HRTの開始・変更・中断は必ず専門医の管理のもとで行われます。


参考文献

国内文献

  • ※1:日本産科婦人科学会・日本女性医学学会「女性更年期医療ガイドライン 2023年版」

国際文献

  • ※2:The Menopause Society. “Hormone therapy position statement 2022.” Menopause. 2022;29(7):767-794.
  • ※3:Vinogradova Y, et al. “Use of hormone replacement therapy and risk of venous thromboembolism.” BMJ. 2019;364:k4810.